福山市神辺町にありますおきとう歯科クリニック院長の沖藤泰隆(顎咬合学会認定医)です。

第1回では「抗生剤が腸内細菌をまとめて減らしてしまう」こと、第2回では「腸内細菌が免疫のアクセルとブレーキを調整し、その免疫細胞が全身に配属される」ことをお話ししました。
第3回の今回は、いよいよ本題です。
腸で整えられた免疫は、お口の中にどう反映されるのか。
最新の研究をもとに、「言えること」と「まだ言えないこと」を正直に分けてお伝えします。
概要
口と腸は一本のトンネルでつながり、私たちは毎日1〜1.5リットルの唾液とともに口の細菌を飲み込んでいます。歯周病の菌が腸の炎症を悪化させることはヒトと動物の研究で示され、逆に腸内細菌が歯ぐきの免疫反応を左右することも動物実験で明らかになってきました。
今回は、歯周病が「免疫の暴走で骨が溶ける病気」であること、唾液の抗体IgAが腸で教育されること、乳酸菌が歯周病治療の補助になるエビデンス、訪問診療での口腔ケアと肺炎予防まで、「言えること」と「まだ言えないこと」を分けて整理します。
要点
- 歯周病の原因菌に反応する免疫細胞は腸で教育され、腸内細菌のいないマウスでは重い歯周病が起きませんでした。腸の状態が、歯ぐきの免疫バランスの土台になります。
- 乳酸菌を摂ると唾液IgAが増えることはヒトの試験で複数確認されており、歯石除去と組み合わせれば短期的に歯周ポケットが0.4〜0.6mm改善します。ただし乳酸菌だけで歯周病が治るわけではありません。
- 「腸を整えれば歯周病が治る」はヒトでは未証明です。お口のケアは歯科で、腸のケアは毎日の食卓で。その両方が歯を守ります。
情報源
本記事は、当院の臨床的な考え方と、記事末尾に挙げた公開文献をもとに構成しています。
口と腸は「一本のトンネル」でつながっている
まず前提として、口と腸は別々の臓器ではありません。口から肛門までは一本のトンネルで、私たちは毎日約1〜1.5リットルの唾液を、口の中の細菌ごと飲み込んでいます。
つまり、口は腸の玄関です。
このことを決定的に示したのが、2020年に米ミシガン大学の北本秀之先生(日本人研究者)らがCell誌に発表した研究です(Kitamoto et al., 2020)。
マウスに歯周病をつくると、口の中で増えた「クレブシエラ」などの菌が飲み込まれて腸に届きます。同時に、口の中でその菌に反応した免疫細胞(Th17)が腸へ移動し、腸に届いた口の菌と出会って大腸炎を悪化させることがわかりました。
さらに2017年には、慶應義塾大学の本田賢也先生らが、クローン病患者さんの唾液から見つかった菌が腸に定着して炎症を起こすことをScience誌に報告しています(Atarashi et al., 2017)。この研究では、腸内環境が乱れているときほど、口の菌が腸に居座りやすいことも示されました。
歯周病を放置することは、腸にとってもリスクなのです。
では、逆方向は? 「腸→口」の研究
ここからが今回の核心です。腸の状態が、口の免疫や歯周病に影響するのでしょうか。
腸内細菌がいないマウスは、重い歯周病にならなかった
2022年の研究(Bao et al., Cell Reports 2022)は、この問いに直接答えたものです。
歯周病の代表的な原因菌「ポルフィロモナス・ジンジバリス」をマウスに与えると、この菌に反応する免疫細胞(Th17)は、口ではなく腸のリンパ組織で育てられ、それが全身をめぐって口に戻り、歯を支える骨(歯槽骨)を溶かすことがわかりました。
決定的だったのは、腸内細菌のいない無菌マウスでは、この免疫細胞がほとんど育たず、重い歯周病も起きなかったという結果です。そして腸内細菌を戻すと、再び歯周病が起きるようになりました。
つまり、歯ぐきで暴れる免疫細胞は、腸で「教育」されているということです。第2回でお話しした「腸は免疫の学校」というたとえが、歯周病についてもそのまま当てはまります。
腸内細菌を入れ替えると、歯槽骨の溶け方が変わった
2021年の日本の研究(Sato et al., mBio 2021)では、高脂肪食で腸内細菌が乱れたマウスの便を、通常のマウスに移植しました。すると、移植を受けたマウスでは歯周病による骨の破壊が悪化しました。腸内細菌が変わっただけで、口の病気の重さが変わったのです。
ヒトでは「相関」まで
ヒトでは、腸に慢性の炎症がある病気(炎症性腸疾患)の患者さんは、歯周病になっている割合が約2.7倍というメタ解析があります(オッズ比2.65)。
ただしこれは「関連がある」というデータであり、「腸を治せば歯周病が治る」と証明したものではありません。薬や栄養状態、共通の体質の影響も否定できないからです。
正直な現時点の結論はこうです。
腸内環境が歯ぐきの免疫反応を左右することは、動物実験ではっきり示されている。
ヒトで「腸を整えたら歯周病が改善した」という決定的な試験は、まだない。
歯周病は「免疫の暴走」で骨が溶ける病気
なぜ腸の免疫が歯周病に関係するのか。それは、歯周病の本質が「細菌が骨を溶かす」のではなく、「細菌に反応した自分の免疫が、自分の骨を溶かす」病気だからです。
2018年の研究(Dutzan et al., Science Translational Medicine 2018)では、ヒトの歯周病組織でアクセル役の免疫細胞(Th17)が増えていること、そして生まれつきこの細胞をつくれない人は歯周病になりにくいことが示されました。
Th17細胞が出す「IL-17」という物質が、骨を壊す細胞(破骨細胞)を活性化するスイッチ(RANKL)を押し、歯槽骨が溶けていきます。
これに対抗するのが、第2回で登場したブレーキ役のTreg細胞です。
歯周病の治療は、「敵(細菌)を減らす」ことと同時に、「味方(免疫)の暴走を止める」ことでもあります。
そして、アクセル(Th17)とブレーキ(Treg)のバランスを決めているのが、腸内細菌と、その餌である食物繊維でした。ここで3回の話がつながります。

唾液の中の「警備員」も腸から来ている
もう一つ、腸と口をつなぐ重要な物質があります。唾液に含まれる分泌型IgA(免疫グロブリンA)という抗体です。
IgAは口の粘膜の表面で細菌にくっつき、歯や歯ぐきに付着するのを防ぐ「警備員」のような役割をしています。
このIgAをつくる細胞は、腸のリンパ組織(パイエル板)で教育を受けたあと、唾液腺に移動して働きます。腸と口の粘膜免疫は「共通粘膜免疫系」として一つにつながっているのです。
そして、腸に届いた乳酸菌が唾液のIgAを増やすことは、ヒトの試験で複数確認されています。
- 活動的な成人84人に乳酸菌飲料(L. casei シロタ株)を16週間飲んでもらうと、唾液IgAが増え、風邪をひく回数も減った(Gleeson et al., 2011)
- 平均71歳の高齢者80人に乳酸菌(L. pentosus b240)を12週間与えると、唾液IgAの分泌速度が約20%上昇した(Kotani et al., 2010)
一方で、徹夜や慢性的なストレス、長時間の激しい運動では唾液IgAが低下することも知られています。
ただし補足すると、「唾液IgAが増えたから歯周病が減った」と直接示した研究はまだありません。ここも「期待できるが証明はこれから」の段階です。
乳酸菌は歯周病治療の「補助」として効果がある
「乳酸菌で歯周病が治りますか?」というご質問をよくいただきます。
2025年に発表された24件の臨床試験のメタ解析(Benavides-Reyes et al., BMC Oral Health 2025)によると、歯周病の基本治療(歯石除去)に乳酸菌を組み合わせると、短期的には歯周ポケットの深さが0.4〜0.6mm程度改善し、出血も減ることが示されています。
ただし、
- 効果は歯科治療と組み合わせたときに出るもので、乳酸菌だけで治るわけではない
- 効果は主に短期(3か月程度)で、1年後には差が小さくなる
- 軽い歯肉炎では明確な効果は確認されていない
当院でも、歯周病の治療中の方に乳酸菌の活用をお勧めすることはありますが、それはあくまで「歯石を取って、毎日の歯みがきをきちんとする」という土台の上での話です。
抗生剤は「口には小雨、腸には大雨」
第1回のテーマに戻ります。オランダの研究(Zaura et al., mBio 2015)では、健康な成人66人に抗生剤(アモキシシリン、クリンダマイシンなど)を1回分服用してもらい、口と腸の細菌を1年間追跡しました。
結果は対照的でした。唾液の細菌はすぐに回復したのに対し、腸では酪酸をつくる菌が数か月減ったままで、耐性遺伝子が増加していました。
歯科で抗生剤を出すとき、影響を受けるのは口よりむしろ腸です。だからこそ、私たちは「本当に必要なとき」に絞って処方しています。

訪問診療の現場で感じること
当院は外来のほかに、ご自宅や施設への訪問診療も行っています。
高齢の方にとって、お口の細菌バランスは「歯」だけの問題ではありません。
介護施設の入居者を対象にした日本の研究(Yoneyama et al., 2002)では、毎食後の歯みがきと週1回の専門的な口腔ケアを2年間続けたグループで、肺炎の発症が19%から11%に減少しました。口の中の細菌が誤って気管に入る「誤嚥性肺炎」を防げたためです。
高齢の方は、食事量が減って食物繊維が不足し、薬の影響で腸内環境も乱れやすく、唾液も減ります。口と腸の両方が弱ると、免疫全体が下がる悪循環に入ります。
だからこそ訪問の現場では、お口のケアと、食べる力・腸の状態をセットで見ることを大切にしています。
日本人の半数以上に歯周ポケットがある
厚生労働省の「歯科疾患実態調査(令和6年)」によると、4mm以上の歯周ポケットを持つ人の割合は、55歳以上のすべての年代で50%を超え、80代前半では6割以上です。
一方で、80歳で20本以上の歯を残している人の割合は61.5%まで上がってきました。
歯は残るようになった。だからこそ、その歯を支える歯ぐきと骨を守る「免疫のバランス」が、これからますます大事になります。
実践:お口と腸を一緒に整える3つの柱
3回のお話をまとめると、お口の細菌バランスを整えるための実践は次の3つになります。
1. お口の「敵」を減らす(土台)
- 毎日の歯みがきと歯間清掃
- 定期的な歯科での歯石除去とクリーニング
- これなしに腸活だけしても歯周病は治りません
2. 腸で「免疫のバランス」を整える
- 多様な発酵食品(納豆、味噌、漬物、ヨーグルト、キムチなど)を日常的に
- 食物繊維(野菜、豆、海藻、きのこ、根菜)を目標の1日18〜22g以上
- 不要な抗生剤を避ける。処方されたときは指示通りに飲み切る
- 乳酸菌は「歯科治療の補助」として活用する
3. 免疫の土台をつくる生活
- 睡眠(唾液IgAと腸内細菌の多様性に直結)
- ストレスをためすぎない
- よく噛んで唾液を出す
まとめ:エビデンスの「強さ」を正直に
| 内容 | エビデンスの強さ |
|---|---|
| 歯周病の菌が腸に届き、腸の炎症を悪化させる | ヒト+動物で強い |
| 歯周病は免疫(Th17)の暴走で骨が溶ける | ヒトで確立 |
| 腸内細菌が歯周病の免疫反応を左右する | 動物実験で明確。ヒトは相関まで |
| 乳酸菌が唾液IgAを増やす | ヒト試験で複数確認 |
| 乳酸菌が歯周病治療の補助になる | ヒトで短期効果あり(単独では不十分) |
| 腸を整えれば歯周病が治る | 未証明 |
「腸を整えれば歯周病が治る」とは言えません。
でも、「口と腸は一つの免疫システムであり、腸を整えることが歯ぐきの免疫バランスを支える土台になる」ことは、研究が示し始めています。
お口のケアは歯科で。腸のケアは毎日の食卓で。
その両方が、これからの「歯を守る」ということだと、私は考えています。
参考文献
- Kitamoto S, et al. Cell. 2020;182:447-462.
- Atarashi K, et al. Science. 2017;358:359-365.
- Kunath BJ, et al. Nature Reviews Microbiology. 2024;22:791-805.
- Bao J, et al. Cell Reports. 2022;40:111314.
- Sato K, et al. mBio. 2021;12:e00771-21.
- Dutzan N, et al. Science Translational Medicine. 2018;10:eaat0797.
- Gleeson M, et al. Int J Sport Nutr Exerc Metab. 2011;21:55-64.
- Kotani Y, et al. Immunity & Ageing. 2010;7:11.
- Benavides-Reyes C, et al. BMC Oral Health. 2025.
- Zaura E, et al. mBio. 2015;6:e01693-15.
- Yoneyama T, et al. J Am Geriatr Soc. 2002;50:430-433.
- 厚生労働省「令和6年 歯科疾患実態調査」
※この記事は一般的な情報提供を目的としています。歯ぐきの腫れや出血が続く場合は、自己判断せず歯科医院を受診してください。






