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【腸と口の話 第1回】抗生剤を飲むと、腸の中で何が起きているのか

腸の中の花畑に抗生剤のカプセルが除草剤のように降りかかり、花が枯れていくイラスト

福山市神辺町にありますおきとう歯科クリニック院長の沖藤泰隆顎咬合学会認定医)です。

腸の中の花畑に抗生剤のカプセルが除草剤のように降りかかり、花が枯れていくイラスト

歯科医院でも「抗生剤(抗菌薬)」をお出しすることがあります。親知らずを抜いたあと、歯ぐきが腫れて膿がたまったとき、などです。
一方で最近、「抗生剤を飲むとお腹の調子が悪くなる」「腸内細菌に良くないと聞いた」という声をよくいただきます。

そこで今回から4回に分けて、「腸内環境」と「お口の健康」のつながりについてお話しします。

  • 第1回:抗生剤を飲むと、腸の中で何が起きているのか(この記事)
  • 第2回:腸内環境が整うと、なぜ免疫力が上がるのか
  • 第3回:腸を整えることが、お口の細菌バランスにもつながる話
  • 第4回:同じ病態の歯でも、痛む人と痛まない人がいるのはなぜか

第1回のテーマは「抗生剤と腸内細菌」です。

概要

抗生剤は原因菌と一緒に腸の善玉菌もまとめて減らし、菌の量は1〜2か月で戻っても、一部の菌種は半年〜2年戻らないことが研究で示されています。腸内細菌の減少は、下痢や耐性菌の増加、免疫反応の低下につながります。

今回は、健康な人に抗生剤を飲んでもらった追跡研究を紹介しながら、厚生労働省の歯科向け手引きに沿って「歯科で抗生剤が本当に必要な場面」と、飲んだあとの腸の回復に役立つ食べ方を整理します。腸と口の健康のつながりを4回に分けてお話しするシリーズの第1回です。

要点

  • 抗生剤は「除草剤」。飲み始めて3〜4日で腸内細菌の多様性が急減し、9種類の菌が半年後も戻らなかった研究があります。クリンダマイシンでは影響が2年続いた例もあります。
  • 歯科では「歯ぐきが腫れて膿がたまっている」など本当に必要な場面に絞って使います。腫れのない痛みや単純な抜歯では原則不要です。
  • 回復には特定のサプリより、多様な発酵食品と食物繊維。抗生剤の直後にプロバイオティクスを飲むと、かえって回復が遅れたという研究もあります。

情報源

本記事は、当院の臨床的な考え方と、記事末尾に挙げた公開文献をもとに構成しています。


腸には「100兆個の住人」がいる

私たちの腸には、数百種類・およそ100兆個ともいわれる細菌が住んでいます。いわゆる「腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)」や「腸内フローラ」と呼ばれるものです。

この住人たちは、ただ居候しているわけではありません。

  • 食物繊維を分解して、腸の壁の栄養になる「短鎖脂肪酸(酪酸など)」をつくる
  • ビタミンをつくる
  • 悪い菌が入ってきたときに、住み着けないように場所を占領しておく
  • 免疫細胞に「誰が敵で誰が味方か」を教える(これは第2回で詳しく)

つまり腸内細菌は、私たちの体の一部として働いているパートナーです。


抗生剤は「除草剤」に近い

抗生剤は、細菌を殺したり増殖を止めたりする薬です。とてもよく効きます。
ただし問題は、抗生剤には「悪い菌だけを選んで倒す」機能がないことです。

畑にたとえるなら、抗生剤は「害虫駆除スプレー」というより「除草剤」に近いものです。雑草(原因菌)と一緒に、大切な作物(善玉菌)もまとめて枯らしてしまいます。

実際にどのくらい変わるのか

健康な人に抗生剤を飲んでもらい、腸内細菌の変化を追いかけた研究がいくつもあります。

研究1:飲み始めて3〜4日で激変
米スタンフォード大学の研究(Dethlefsen & Relman, 2011)では、健康な人に抗生剤(シプロフロキサシン)を5日間飲んでもらったところ、飲み始めて3〜4日で腸内細菌の多様性が急激に低下しました。回復は「しばしば不完全」で、2回目の投与では1回目より大きなダメージを受けた人もいました。

研究2:9種類の菌が半年たっても戻らなかった
デンマークの研究(Palleja et al., 2018)では、健康な男性12人に強力な抗生剤3種類を4日間投与し、その後6か月間追跡しました。
腸内細菌の「量」は約1.5か月でほぼ元に戻りました。ところが、投与前は全員が持っていた9種類の菌が、半年後も大半の人で検出できないままでした。
さらに、抗生剤を飲んでいる最中は、ビフィズス菌や酪酸をつくる菌が枯渇し、代わりに腸内細菌科やエンテロコッカスといった「日和見菌」が増殖していました。

研究3:影響が2年続いた例も
スウェーデンの研究(Jernberg et al., 2007)では、クリンダマイシンという抗生剤を7日間飲んだ人の腸内細菌を2年間追跡しました。主要な菌グループの構成は2年たっても元に戻らず、耐性遺伝子は増えたまま持続していました。

森にたとえると、下草(菌の量)は1〜2か月で生えそろいます。でも、大きな木(特定の菌種)は一度切ると何年も戻らないことがある、ということです。

下草は生えそろったが大きな木は切り株のまま戻らない森のイラスト
下草(菌の量)は1〜2か月で戻るが、大きな木(特定の菌種)は切り株のまま何年も戻らないことがある

腸内細菌が減ると、何が困るのか

① 下痢や、悪い菌の「居座り」

抗生剤を飲んだ人の5〜35%に下痢が起きるとされています(抗菌薬関連下痢症)。
善玉菌が減って腸の中が「空き店舗だらけの商店街」になると、そこにたちの悪いテナントが入ってきます。代表が「クロストリジオイデス・ディフィシル」という菌で、重い腸炎の原因になります。

ちなみに、歯科でペニシリンアレルギーの方に使う「クリンダマイシン」は、この菌による腸炎のリスクが約17倍とされ、抗生剤の中でも最も高い部類です(Brown et al., 2013 のメタ解析)。

② 腸の壁が弱る

酪酸をつくる菌は、腸の壁の細胞にとっての「燃料」を供給しています。この菌が減ると壁が弱り、炎症や不調につながりやすくなります。

③ 耐性菌が増える

抗生剤を飲むたびに、腸の中では「その薬が効かない菌」が生き残って増えます。先ほどのJernbergの研究では、耐性遺伝子の増加が2年間続いていました。次に本当に必要なとき、薬が効きにくくなるリスクです。

④ 免疫の反応が鈍る(第2回への伏線)

米国の研究(Hagan et al., 2019)では、健康な成人にインフルエンザワクチンの直前に抗生剤を飲んでもらったところ、腸内細菌が約1万分の1に減り、もともと抗体が少ない人ではワクチンへの反応が弱くなることがわかりました。腸内細菌と免疫は直結している、ということです。


歯科で使う抗生剤について、正直にお伝えします

ここまで読むと「歯医者さんで抗生剤を出されたら断るべき?」と思われるかもしれません。答えは「本当に必要なときは飲んでください。ただし、必要ないときは出しません」です。

厚生労働省が2025年に公表した「抗微生物薬適正使用の手引き(歯科編)」では、次のように整理されています。

  • 抜歯のあとの予防投与:全身のリスク(心臓の病気、免疫が下がる持病など)がなく、歯ぐきを切ったり骨を削ったりしない単純な抜歯では、抗生剤の予防投与は推奨されません
  • 下顎の埋まった親知らずの抜歯:術前1回だけの服用で感染リスクを減らせるため、これは推奨されます。
  • 歯の痛みだけ(腫れていない):抗生剤は不要です。
  • 抜歯後の傷の痛み(ドライソケット):抗生剤は不要です。
  • 歯ぐきが腫れて膿がたまっているとき:抗生剤が必要です。

実は日本の歯科では長年、「第3世代セフェム系」という広域の抗生剤が処方の6割以上を占めていました。世界の多くの国ではアモキシシリンが主流です。
第3世代セフェム系は、お口の原因菌とあまり関係のないグラム陰性菌まで幅広く叩くうえに、飲んでも腸から吸収される割合が15〜25%程度しかない薬もあります。つまり、飲んだ薬の大半がそのまま腸に残って、腸内細菌だけを攻撃するような形になってしまいます。

当院では、お口の細菌に的を絞った「狙撃銃」であるアモキシシリンを基本にし、できるだけ短い期間で処方するようにしています。


抗生剤を飲んだあと、腸を回復させるには

「飲み終わったら整腸剤や乳酸菌のサプリを」と思う方は多いと思います。ここは少し意外な研究結果があります。

イスラエルの研究(Suez et al., 2018)では、抗生剤のあとに市販のプロバイオティクス(乳酸菌など11種)を飲んだグループは、何もしなかったグループより腸内細菌の回復が遅れたのです。外から入れた菌が、元々の住人が戻ってくるのを邪魔してしまったと考えられています。

一方、米スタンフォード大学の研究(Wastyk et al., 2021)では、健康な成人36人を10週間追跡したところ、ヨーグルト・キムチ・発酵野菜など多様な発酵食品を毎日食べたグループで腸内細菌の多様性が増え、炎症のマーカー19種類が低下しました。

ここから言えるのは、次の4点です。

  1. 不要な抗生剤を飲まないことが、最大の腸内細菌保護
  2. 飲むなら、狭い範囲に効く薬を、最短の期間で
  3. 特定のサプリより、いろいろな種類の発酵食品を日常的に(ヨーグルト、納豆、味噌、漬物、キムチなど)
  4. 食物繊維(野菜・豆・海藻・きのこ)は、酪酸をつくる菌の「餌」として長く続ける
納豆、味噌汁、漬物、ヨーグルト、キムチ、海藻、きのこが並ぶ食卓と、花が咲く腸のイラスト
回復の主役は特定のサプリより、多様な発酵食品と食物繊維

まとめ

  • 抗生剤は「除草剤」。原因菌と一緒に善玉菌も倒す
  • 腸内細菌の量は1〜2か月で戻るが、一部の菌種は半年〜2年戻らないことがある
  • 歯科では「腫れて膿がたまっているとき」など本当に必要な場面に絞って使う。単なる痛み・単純抜歯では原則不要
  • 回復には特定のサプリより、多様な発酵食品と食物繊維

次回は、この腸内細菌がなぜ「免疫力」を左右するのか、日本の研究者が世界に先駆けて明らかにした仕組みをお話しします。


参考文献

  • Dethlefsen L, Relman DA. PNAS. 2011;108(Suppl 1):4554-4561.
  • Palleja A, et al. Nature Microbiology. 2018;3:1255-1265.
  • Jernberg C, et al. ISME J. 2007;1:56-66.
  • Anthony WE, et al. Cell Reports. 2022;39:110649.
  • Brown KA, et al. Antimicrob Agents Chemother. 2013;57:2326-2332.
  • Hagan T, et al. Cell. 2019;178:1313-1328.
  • Suez J, et al. Cell. 2018;174:1406-1423.
  • Wastyk HC, et al. Cell. 2021;184:4137-4153.
  • 厚生労働省「抗微生物薬適正使用の手引き 第四版 歯科編」(2025年)
  • 厚生労働省「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン 2023-2027」

※この記事は一般的な情報提供を目的としています。処方されたお薬は自己判断で中止せず、必ず処方した医師・歯科医師にご相談ください。

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