福山市神辺町にあります、おきとう歯科クリニック院長の沖藤泰隆です。
今回は、**「義歯はリハビリ器具である」**という視点からお話を進めたいと思います。
義歯を装着した患者さんから「痛い」「噛めない」「違和感がある」といった声をよく耳にします。
中には、「こんなもの入れておけない!」とおっしゃる方もいらっしゃいます。
そのお気持ちは本当によく分かります。ですが、まずご理解いただきたいのは——
義歯は「リハビリ器具」だということです。
1. 義歯は「治療の終わり」ではなく「リハビリの始まり」
まず、義歯が完成した瞬間は「ゴール」ではありません。
それは「リハビリのスタートライン」に立ったに過ぎないのです。
どうしてリハビリが必要なのか?
- 天然歯とはまるで違う感覚
→ 支えが「骨」から「粘膜」に変わり、噛みごたえや力の伝わり方が全く異なります。 - 筋肉の使い方を覚え直す必要がある
→ 頬や舌の動きで義歯を安定させる「舌の訓練」が求められます。 - 「異物」を体に受け入れさせるプロセス
→ 脳が「これを入れているのが普通」と認識するまで、時間と訓練が必要です。

2. 義歯がすぐに馴染まない理由と個人差
義歯は「異物」です
義歯は人工物であり、粘膜の上に乗っているものです。
これは「義足」や「義手」と同じく、自分の体の一部ではありません。
そのため、多かれ少なかれ「違和感」「痛み」「不快感」を伴います。
個人差が大きい
- 適応力が高い方
→ 数週間で「自分の歯」のように使える方もいます。 - 適応が難しい方
→ 「口の中に異物を入れておくことが耐えられない」と訴え、義歯の使用が難航する方もいます。
これには**「我慢強さ」や「感覚の敏感さ」**が影響します。
患者さんそれぞれに「慣れるまでの道のり」が違うのです。
3. なぜ義歯の調整に何度も通う必要があるのか?
義歯を装着してから数日後、「痛くて噛めない」「外れやすい」という症状が出ることは珍しくありません。
これは**「使ってみて初めてわかる不具合」**です。
調整が必要な理由
- 義歯が粘膜を傷つける場合
→ 義歯の一部が強くあたり「口内炎」や「潰瘍」を作ってしまう - 咬み合わせのズレ
→ 実際の食事や会話で使って初めて、咬合バランスの不備が分かる - 義歯が緩んだり外れやすい
→ 咀嚼や発音に伴う動きの中で問題が顕在化する
それでも続けるべき理由
義歯は、調整を重ねながら「体になじませていく」治療法です。
1回や2回の調整で終わるものではなく、使いながら徐々に馴染んでいくものなのです。

4. 妥協が必要となる義歯治療、その現実とは
義歯は「完全に天然歯の代わりになるものではない」
義歯はあくまで**「失われた歯の機能を部分的に補うための道具」**です。
例えるなら…
義足が「元の足」とは全く同じにならないように、
義歯も「天然の歯」とは全く同じにはなりません。
妥協とは何か?
- 違和感や不便さを「受け入れる」こと
- 100点満点ではなく「合格点」を目指すこと
- 「噛める」「話せる」「見た目が良くなる」ことに意義を見出すこと
治療を進めるうえで、「ここまで改善したから良しとしよう」と**「どこかで折り合いをつける」**ことが必要です。
5. まとめ
義歯治療は、**「義歯を作って終わり」ではなく、
そこから始まる「リハビリ」**をどれだけ丁寧に積み重ねるかが大切です。
義歯はリハビリ器具であり、馴染むまでに時間がかかる
個人差が大きく、慣れるまで我慢が必要なこともある
完璧を目指すのではなく、「今よりまし」「あるだけまし」を大切にする心構えが大切
義歯をお使いになる皆さまにとって、
「違和感」「痛み」「噛みにくさ」は大きなストレスかもしれません。
ですが、その違和感や痛みは、あなたの口が義歯に順応していくためのサインでもあります。
何かあれば、遠慮なくご相談ください。
私たちも、全力でサポートさせていただきます。
参考文献
- 高橋 均. 「義歯装着者の適応障害とその対策」 日本補綴歯科学会雑誌, 2017;61(4):331-339. CiNii
- Zarb GA, Bolender CL. “Prosthodontic Treatment for Edentulous Patients.” Elsevier Health Sciences, 2013.
- 渡邉 弘毅. 「義歯装着とリハビリテーションの意義」 歯科医療, 2020;39(6):427-433. J-STAGE






