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健康な歯は削ってはいけない?その「正しさ」があなたの歯を守れない理由

こんにちは。福山市神辺町にありますおきとう歯科クリニック院長の沖藤泰隆です。
今回は、あえて少しドキッとするテーマをお話ししたいと思います。

「健康な歯は削ってはいけない」という考え方。
これは誰に聞いても、「その通りだ」と言われるような“正論”でしょう。
ですが、この「正しさ」が時として患者さんの歯を守れないどころか、かえってリスクを増やしているケースがあることをご存知でしょうか?


「健康な歯を削るな」という正しさが生む誤解

私たち歯科医師は、日々患者さんとお話しする中で「健康な歯を削るのは絶対にイヤです」という声をよく耳にします。
そのお気持ちはよくわかります。自分の体の一部を削るという行為には、本能的な抵抗がありますよね。

ですが、実際の医療現場では、一見「健康な歯」を部分的に削ることで、将来的な虫歯や歯周病、噛み合わせの悪化を防ぐケースが少なくありません。

たとえば、

  • 部分矯正や全顎矯正を行うとき
  • 噛み合わせを安定させるために調整する場合
  • 精密な被せ物やブリッジのための形成
    こうした場面では、わずか数ミクロン単位での削合が必要です。
    それが結果的に、歯そのものを長持ちさせる選択につながります。

「健康だから削らない」ではなく、「健康を守るためにあえて削る」というアプローチがあることを、ぜひ知っていただきたいのです。


「正しさの罠」とインセンティブ構造

「健康な歯を削るのはダメ」という正論は、一見すると誰もが納得しやすい“常識”です。
しかし、それは時に、患者さんご自身の治療選択肢を狭め、状況を悪化させてしまうこともあります。

なぜそうなるのか?
「正論」は単純でわかりやすく、拡散されやすい情報です。
SNSや口コミでも、「歯を削られたくない!」という声は広まりやすく、そうした情報が“共感”を呼びます。
一方で、削る必要性や医師の判断に基づく精密な情報は、説明が難しく、受け手によっては「歯医者が儲けのために削る」と誤解されてしまうことも。

ここに、患者さんと医療側の「知識の非対称性」があります。
本来、医療現場は「個別の状況」によって判断されるべきものですが、正論はその複雑さをすくい上げることができません。

私たちが「正しい」と信じていることが、必ずしもすべての状況で役に立つわけではないのは、多くの場面で経験しているはずです。
ですが、なぜこれほどまでに「正論」が支持されるのか?
そこには、目に見えないインセンティブ(動機付け)の構造が関係しています。

● SNSやメディアが生む「正論偏重」

現代は情報過多の時代です。
SNSやインターネット上では、誰もが情報を発信し、それを簡単に拡散できます。
「健康な歯は削ってはいけない」といった、わかりやすく、誰もが反対しづらい意見は、共感されやすく、どんどん広がります。
なぜなら、そのほうが“「いいね!」やシェアが増えやすい”からです。
つまり、シンプルな正論は、情報発信者にとって“評価されるためのインセンティブ”になります。

✅ インセンティブの具体例

  • 発信者は「正論」を発信するとフォロワーが増える
  • 情報は“共感”を得やすい内容ほど支持されやすい
  • 医療の複雑な説明は共感を得にくいため埋もれやすい

● 医療現場と患者さんの間にもインセンティブのギャップがある

歯科医師にとっては、「患者さんの長期的な健康を守ること」が目的です。
これは、目先の治療だけでなく、5年後10年後を見据えた判断が必要です。
一方、患者さんは
「できるだけ痛くない」「削られたくない」「治療に納得したい」という感情や価値観があります。
これ自体は当然のことですが、そこに「削らない方が安全で良い」という“わかりやすい正論”が加わると、誤解や不信感を生む原因にもなります。

✅ 医療現場のインセンティブ

  • 削る必要があれば、説明し提案する
  • 削らない選択が患者さんに不利益になる場合でも、説明が難しいと選択肢から外れてしまうリスクがある

✅ 患者さん側のインセンティブ

  • 削られたくないという「感情」
  • 情報を精査せず、「正論」を信じた方が気持ちが楽になる

● インセンティブが生む「最適解」のズレ

このズレを埋めるのが、私たち医療者の役目だと考えています。
「健康な歯は削ってはいけない」という“正論”は、患者さんの不安を和らげる一方で、
本来必要な医療判断を「不要だ」と勘違いさせる危険性もあります。

だからこそ、インセンティブの構造に気づいて、

  • 情報がなぜその形で出回っているのか
  • 誰の利益になっているのか
    を、冷静に考えていただければと思います。

私たちは、そういった情報のノイズを取っ払ったところで、
「あなたにとって本当に必要なこと」を一緒に考え、説明する
これを何より大切にしています。

✓情報は「わかりやすさ」「共感」で拡散される
✓正論が誰かのインセンティブによって発信されていることを知る
✓本当の最適解は、その人その人で違う
✓医師と一緒に納得して選択することが大切


健康な歯を削ることの「メリット」と「デメリット」

メリット

  1. 噛み合わせの改善
    → 他の歯への負担が減り、将来的な歯の破折や歯周病リスクを抑えます
  2. 虫歯や歯周病のリスクを低下
    → 清掃性を改善し、プラークコントロールがしやすくなります
  3. 補綴物(被せ物やブリッジ)の適合精度向上
    → 精密に削ることで、長期的に安定した補綴が可能になります

デメリット

  1. 削りすぎによる歯質の減少
    → 削る量が過剰だと、将来的な神経のトラブルや歯の寿命を縮めるリスクがあります
  2. 術者の技術力に依存
    → 必要最小限の削合が求められ、精度の低い処置は悪影響を与えます
  3. 患者さんの不安感
    → 「削られる」という行為自体への精神的な抵抗感は避けられないことがあります

つまり、「削ることそのもの」が悪いのではなく、「何のために、どこまで削るか」が重要なのです。


患者さんが知っておきたい「正しい判断」のポイント

1. 疑問があれば、遠慮なく質問を

「なぜ削るのか?」
「どのくらい削るのか?」
「削らない選択肢はないのか?」
疑問を持つことは当然の権利です。納得いくまで聞いてください。私たちはそのためにいます。

2. 情報は“文脈”を大切に

インターネットでの情報収集も大事ですが、すべてがあなたの状況に当てはまるわけではありません。
大切なのは「あなたの歯と体の状況」です。

3. 「正しさ」より「最適解」を一緒に探す

“正論”ではなく、“あなたにとっての最善”が何かを考える。
それが、医師と患者さんの二人三脚で進む医療の形です。


まとめ

「健康な歯は削ってはいけない」という正論は、確かに魅力的に聞こえます。
ですが、それが“すべての人に当てはまる唯一の正解”ではないことを、どうか知っておいてください。

あなたの歯の健康を長く守るために、時には「削る」という選択が必要なこともある。
それは医師が責任をもって行う判断であり、あなたの将来を見据えた提案です。

私たちは「削らない治療」も「削ることで守る治療」も、その場にふさわしい選択を常に考えています。
ぜひ、遠慮なくご相談ください。


沖藤泰隆
顎咬合学会認定医


参考文献

  1. Addy M, et al. “Dentine hypersensitivity: definition, prevalence, distribution and aetiology.” J Clin Periodontol. 2002;29 Suppl 2:36-41.
  2. Pashley DH. “Dentin permeability, dentin sensitivity, and treatment through tubule occlusion.” J Endod. 1986;12(10):465-474.
  3. 日本歯科保存学会「知覚過敏症のガイドライン」2020年版

 

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