福山市神辺町にあります、おきとう歯科クリニック院長の沖藤泰隆です。
今回は、**「義歯治療の限界」と「それでも義歯を入れておくべき理由」**についてお話しします。
義歯(入れ歯)を入れた患者さんから、 「思ったより噛めない…」
「痛いし、外れやすい…」
「これじゃ何のために入れているのかわからない…」
そんな声をいただくことがあります。
お気持ち、よくわかります。しかし、それでも義歯は「あるだけまし」と言われる理由が、確かに存在します。
「満足度」は高くないかもしれませんが、義歯が担う役割を見直してみましょう。
1. 義歯治療の限界とは?
義歯は、天然の歯に比べて明確な機能的な限界を持っています。
義歯の主な限界
- 咬合力は天然歯の約3割
- 支えているのは「歯茎の粘膜」と「吸収されやすい顎の骨」
- 食事中や会話中に「ズレる」「痛む」「外れる」
- 熱い・冷たいといった温度感覚や噛み応えのフィードバックが弱い
- 部分義歯であれば、残存歯に余分な力がかかり負担が増す
それでも「義歯がない」よりは「ある方がずっとまし」だと考える理由があります。

2. 義歯を入れないと起こる悪循環
義歯を装着しないと、以下のような深刻な問題が起こることがあります。
残存歯への悪影響
- 隣の歯や対合歯(噛み合う歯)が移動する
→ 隙間を埋めようと「歯が倒れ込む」「伸びてくる」
→ 噛み合わせが崩れて、全体のバランスが悪化する - 噛む力のバランスが崩れる
→ 一部の歯に過剰な負担がかかり、その歯を失いやすくなる
顎の骨への悪影響
- 骨吸収が進行する
→ 歯が抜けたままだと、骨に刺激が伝わらず骨が痩せていく
→ 将来的に義歯が「もっと合いにくくなる」
顎関節・全身への影響
- 顎関節症のリスク増加
→ 噛み合わせのズレから、顎の痛みや頭痛、肩こりを引き起こす - 全身の姿勢バランスに悪影響
→ 噛み合わせは「体全体のバランス」に直結しています
3. 義歯は「あるだけまし」の理由と残存歯へのメリット
残存歯の保護
義歯があることで、噛む力のバランスを保ち、他の歯が「過労死」するのを防いでいます。
義歯は、**「噛み合わせを補う役目」**も果たしており、隣や対合の歯の動きを制御する「壁」の役目も担っています。
具体的なメリット
- 残存歯の動揺(ぐらつき)を抑える
- 隣や噛み合う歯が動くのを防ぐ
- 噛み合わせの高さ(咬合高径)を維持できる
顎の骨の吸収を抑制
義歯を入れることで、骨への圧力が一定に加わり、骨吸収のスピードが緩やかになります。
4. 患者さんの義歯への「期待」と「現実」のギャップ
義歯を入れると、「元通りに噛める」「なんでも食べられる」と思われがちですが、それは難しいのが現実です。
しかし、
- 「義歯は天然歯と同じものではない」
- 「それでも、義歯を入れることで残っている歯を守り、噛み合わせのバランスを維持している」
という事実を知ることで、義歯の「役割」を正しく理解できるようになります。
5. まとめ
義歯治療は決して万能ではなく、機能や快適性に限界があります。しかし、それでも「義歯を入れておくこと」は、次のような大きな意味を持っています。
咬合バランスを整え、残存歯への負担を軽減する
顎の骨の吸収を抑え、口腔内の形態を維持する
全身のバランスにも影響し、健康を支える
「あるだけまし」という表現は消極的に聞こえるかもしれませんが、これは「残存歯を守り、口腔環境を保つための最低限の装置」として義歯がいかに重要かを端的に表しています。
義歯に満足できない場合は、調整や作り直しを含めたフォローアップも大切です。お悩みがある方は、ぜひお気軽にご相談ください。
参考文献
- 柳澤 宏志. 「義歯装着による顎堤の骨吸収抑制効果」 日本補綴歯科学会雑誌, 2018;62(3):215-223. J-STAGE
- Tallgren A. “The continuing reduction of the residual alveolar ridges in complete denture wearers: a mixed-longitudinal study covering 25 years.” J Prosthet Dent., 1972;27(2):120-132. PubMed
- 山下 昇, 他. 「残存歯に対する部分床義歯の影響」 日本補綴歯科学会雑誌, 2016;8(1):23-30. CiNii






